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普通唱導集の大将棋記載と中将棋(長さん)

少なくとも、現代中将棋と平安大将棋とを比べると、
最も大きな差は、”獅子”の存在である。しかも、
この獅子には、ただの強力駒であるばかりでなく、
次のような同種獅子駒による排除を防ぐ特別規則があ
り、消失しにくくなる事によって、更に存在感を増大
させている。
1)獅子を獅子でとったとき、次に獅子をとられた側が、
 ただちに取り返せるような手があるとき、2升先の
 獅子を獅子で取るケースについてだけは、獅子を獅子
 で取る手そのものを禁手とする。
 (基本則。足付きの獅子則、含む影の足則。)
2)獅子を一般の駒で取られた側が、別途相手の獅子を
 こんどは自分の一般の駒で取り返す手があっても、
 先取り側の獅子を自分が狙っている駒について、獅子
 を取らせた直後に先取り側が 取り返せるような手が
 あるときには、続けて▲獅子捕り手△獅子捕り手とは
 指せない。(先獅子弱則)
3)1)には例外があり、1)のようなケースでも、
 獅子の2歩移動規則によって、1歩目に別の駒を併
 せて取る手は、獅子の自殺手であっても指せる。
 (付け喰い則)
4)3)には例外、すなわち1)から見ると、例外の
 例外があり、”別の駒”が、歩兵か仲人のケースは、
 1)と同じく禁手のままである。(付け喰い則の例外)
5)3)に述べたように、付け喰いでは、獅子による
 取り返しの利く獅子取りは自殺手になるが、2)の
 先獅子弱則の適用される、もともと相手の獅子には、
 獅子以外の自分の一般駒も、二重に当たっている
 ような、特別な場合も理論上ありえる。この場合は
 2)の先獅子弱則が適用されるかどうか、最初の
 取り駒が一般駒ではない、獅子自身のケースになる
 ため一見して合禁が判らなくなる。しかし、そうした
 複雑なケースも含めて、付け喰い直後には、
 付け喰いした獅子を、相手はただちに一般駒で、
 取り返せるものとする。(獅子討ち則)

 強いゆえの獅子駒の使い道の多彩さ、特別規則から
生じるアヤにより、中将棋はそれまでの大将棋等に比
べて、変化にとんだおもしろい将棋になって、好きで
将棋を指す人口を、増加させる第1の理由になったに
違いない。
第2の理由は、中将棋では12×12升目と偶数升目に
変化し、これにより、玉のすぐ前の守り駒が、奇数升目
から偶数に変わると同時に、最下段の横(右)に移動
せざるをえない事が、大きかったとみられる。そのため、
陣はかなり弱体化し、玉将は詰み易くなって、ゲーム
としてのバランスが取れた。上記の獅子諸規則から来る
戦術の”アヤ”と、具体的には酔象の移動による終盤
のスピードアップの2点が、それまでの駒数多数将棋
には無い、中将棋の伸張を作り出したと、私は予想
する。しかしながら、私がここで強調したいのは、

中将棋には、更に特長の第3というものが、あった
のではないかと言うことであるだ。それは、ずばり

普通唱導集の大将棋にある、端攻め定跡を消失させた

という点である。前回のべた、普通唱導集大将棋の
記載内容の解析が正しいとすると、仮説13×13升目
自陣4段組普通唱導集大将棋で、端攻め定跡を成立させ
た要素は、次のようなこの将棋種の駒配列の性質である。

1)飛車が端列にある。
2)左右逆側の角行が、横行と反車を睨む前段位置に
  ある。
3)横行が角筋に当たっている。
4)仲人の足となり得る、嗔猪という駒が存在する。
5)おなじく、桂馬が仲人の足になりえるように存在
  している。

私見では、中将棋を成立させたとき、作者は上の5つ
の要因を、これでもかと徹底的に排除したと見る。
つまり、
1)は飛車を龍馬と竪行の間に場所換えをして解決。
2)は角行を2段目に退かせて、中盤最初の走り攻め
  駒には、なりにくくした。
3)は横行の位置を、端筋に移動させた。
4)と5)は、もっと徹底していて、これら2種の駒
  は、定跡の戦犯として、完全に排除してしまった。

 中将棋を指すと、日本将棋と違って桂馬が無いのが
目立つが、私見では、理由が普通唱導集大将棋の2段
目の記載と、繋がっているのではないかと考えている。
 ただし、普通唱導集の大将棋記載の内容は、たぶん
普通唱導集の作者が、考え出したものではないと思う。
この定跡は、今は語る者が少ないが、その時代の
大将棋の棋士にとっては、常識的な内容だったので
あろう。しかも以下は、あくまで私の棋力で考え
出せる範囲であるが、

普通唱導集時代の大将棋は、ほぼそれに記載された、
端攻め戦法ばかりが、西暦1300年の頃には
行われていたのではないか、

と、私は推測する。将棋が官制を表し、位の高い順に
駒を内から外に置き、また端列に車、端から2列目に
馬駒を置くため、端列の自陣の頭は強いのだが、端か
ら2列目の頭が急所になるのは、将棋の種類によらず、
一般的傾向だと私は認識する。
 普通唱導集大将棋の端攻めは、端から2列目の頭を
攻略するための、端の邪魔な守り駒群の排除であり、
将棋の種類に係わらず、そのように指すのが、常識的
になる傾向は、元から有るのだと思う。
 しかし、普通唱導集時代の大将棋では、角行と龍馬
を前列に置いていたため等により、端攻め定跡が、
定番レベルに上がってしまったのだろう。しかし他方、
指し方のワンパターン化というのは、ゲームをより
つまらなくする、大きな原因である。
 普通唱導集の大将棋の記載は、それをこれみよがし
に表現することにより、内容の情報としての価値を
上げ、仏教のめざした唱導集の目的にふさわしい、
良く”惟って”作ったものにしようとしたものだろう。
 逆に言えば、普通唱導集の大将棋の時代。この
端攻め定跡のワンパターン化により、駒数多数将棋
は行き詰まっていた。そしてそれを、中将棋が
大将棋を超え、更には小将棋が有っても流行り続ける
ようにする為には、絶対に解決する事が必要だった。
 そこで中将棋の作者は、上のように要因をあげて、
「とにかく全部を切捨てる」という、私に言わせる
と比較的安直な対応ながら、実際にそれを
やり遂げたのだと、私は考える。そして以上の
ように考えると、私が提案した、104枚、
13×13升目制普通唱導集時代の大将棋こそが、
92枚、12×12升目制中将棋へ、ここから
変化したものであると、上の思考過程から当然
考えさるを得なくなる。
つまり、以下の状態

一段目中央から玉将、金将、銀将、銅将、鉄将、桂馬、香車
二段目中央から酔象、麒麟、猛虎、空き、嗔猪、飛龍、反車
三段目中央から奔王、龍王、龍馬、角行、竪行、横行、飛車
四段目は歩兵13枚、五段目は、角行の前の升目に2枚の
仲人を置いて、13×13升目、104枚制大将棋

から、たとえば14列に増やして2段目を反車以外に
ついて内に寄せる(猛虎は盲虎に強化)と、3段目に
獅子を入れ込める。これで、獅子が加わり、酔象が
玉将に並んで、偶数升目になる。ついで残りの、端攻
め定跡を排除する、変化の過程は次のようになる。
 まず”戦犯”の桂馬と嗔猪を除く。
 次にそうしてから、角行位置に飛車を置いて、角行
は一段落とす。
 更に、竪行と横行を端に一つ移動させる。
以上、上でした説明のように、端攻め定跡徹底排除の
ための駒位置変更をすると、結局配列は、以下のよう
に、だんだん中将棋に近づいてゆく。

つまり以上により、
一段目中央から玉/酔、金将、銀将、銅将、鉄将、空き、香車
二段目中央から麒/鳳、盲虎、空き、角行、飛龍、空き、反車
三段目中央から獅/奔、龍王、龍馬、飛車、空き、竪行、横行
四段目は歩兵14枚、五段目は、飛車から龍馬の前の升目に
2枚の仲人を飛車先の仲人は合掛りのじゃまなので移動する
とし、14×14升目、100枚制の将棋になる。

ここまで来ると、中将棋の名に相応しいようにすべく、
もともとの大将棋の13升目よりも、1升目少なくするため、
鉄将の列を除いて12升目にし、最後に一段目の端か
ら2列目が空いているので、猛豹を加えれば、以上の簡単
な変化で、12×12升目の現中将棋が完成する。
 つまり以上のように、13×13升目 104枚制
の、(私の仮称)普通唱導集大将棋からは、もともと
自陣が4段型であるため、中将棋へ移行させる事も、
主に端攻め定跡をなくす、変化だとわかってしまえば、
さほど複雑な経過をたどらないのである。
 実は、近代の中将棋の棋士、岡崎史明氏の冊子、
中将棋の指し方の13ページに、「古来、中将棋には
定跡がないと言われるが」とあり、おそらく口伝で、
中将棋の定跡の無さが、伝わっているものと推定される。
この記載で「古来」がいつの事を指すのか、明らかに
されてはいないが、中将棋の作られた、南北朝時代か
少し前、西暦1300年~1350年程度を指し、

「定跡が無い」のではなくて、
「定跡が出来ないように工夫して作成された」旨が、

ぼんやりと、現在も伝わっている可能性もあるので
はないかと、私は個人的に、この箇所に注目している。
 いずれにしても「いつもの端攻め」を、中将棋では
やりにくくした結果、それまであった普通唱導集時代
の大将棋が、中将棋に取って代わられる、要因の、
少なくともひとつになったと、私は考えている。つまり
中将棋には、「普通唱導集の大将棋記載の逆を行く」
という”普通唱導集の痕跡”が、配列の中に残っている
と、見てよいのではないだろうか。(2016/11/25)

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