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童遊文化史の「玉将攻め将棋」(長さん)

以前紹介した半澤敏郎先生の表題著書は、もともと子供の遊びの研究書
なため、かなりの分量を割いて、本将棋以外の将棋遊びについて、紹介
されている。書かれている遊びのうちの多くは、よく知られている物ば
かりのようだが、webも含めて、余り他で、言及されていないものに、
表題の”玉将(王将)攻め将棋”というのがあるらしい。
これは、守り方が玉一枚を、盤の恐らく中央(天元)に置き、攻め方が

一定枚数の、玉駒以外の一般駒を、最初から”持ち駒”として持って、
先手で打ってゆき、通常の、駒の動かし方で、後手の守り方の、最初か
ら裸の玉将を詰める

というものである。ただし、童遊文化史によると、攻め方は駒を打つ事
は許されるが、同じ駒は移動できず、利き筋に玉が入れないだけであり、
打つ手しか指せない。それに対して、後手の守り方には味方駒も、持ち
駒もなく、玉将が逃げる事だけ、許されるらしい。つまり、

この将棋は必ず、攻め方が最初に持つ持ち攻め駒の数の、2倍の着手で、
終局になるのである。

むろん、玉が詰まれたら攻め方の勝ち、逃げられたら、守り方の勝ちで
あり、相互に攻めと守りを交代して、攻め方のときに詰んだ局数が多い
方が、総合的に勝ちと判定される。
 童遊文化史の玉将詰め将棋の記載は、比較的短く、出典も謎なので、
この本の全体的な流れから見て、江戸時代の将棋遊びについて、述べて
いるのだろうと、推測するしかない程度の確かさしかない。だが、攻め
駒の構成に関する、この成書の記載からみて、

洗練されて、流行った遊びとは言えないように、私見される。

すなわち、記載された初期攻め持ち駒の数が、9×9升目上を逃げ回る、
裸玉を詰むには、やや多すぎるのである。実際にざっとやってみると、
将棋が指せる方なら確認できると思うのだが、裸玉を、日本将棋の9×
9の盤上で並べ詰みにするには、

金将2枚、銀将2枚、桂馬3枚、歩兵3~4枚の計10~11枚程度の、
先手最初からの持ち駒で、充分ではないかと私は思う。童遊文化史に書
かれた、必要攻め持ち駒の数が、これよりかなり多く、ゲームデザイン
上、優れたゲームとは言えないように、私は思うのである。

また、飛車1枚と、香車が2枚の計3枚で、中央玉は、”割り箸詰み”
になるので、飛車、香車を、攻め駒の構成メンバーに入れない事が、記
載されていないのもおかしな点だと私は感じる。つまり、アイディア倒
れで、実際には、少なくとも上記のような単純なルールでは、
玉将攻め将棋は、江戸時代には、盛んに行われたという事は、なかった
のではないかと、私は予想している。ただし、この”遊び”が仮に、も
っと古い時代に行われていたとしたら、事は重大だと思う。

何故なら、玉将攻め将棋が有ったという事は、小将棋に持ち駒ルールが
その時点で有った、というのと、だいたい一緒ではないかと、私が考え


からである。たとえば、南北朝時代の小山義政が、出家して小山永賢に
なった西暦1381年時点で、息子の隆政といっしょに、玉将攻め将棋
の類をやっていたという史料でも見つかると、鎌倉時代末期の普通唱導
集に記載された小将棋には、持ち駒ルールが有ったと、ほぼ断定できる
ようになる。そのため将棋史への影響が、はかりしれないものがあると、
私は思う。玉将攻め将棋は、本将棋とは全く違うものであるが、本将棋
が指せないと、遊べないという点が、たいがいの子供の将棋遊びとは、
大きく違っている。それで、大人が玉将攻め将棋の類を、全くしないと
も決めつけられないだろう。本来指せるはずの本将棋をしないで、同じ
道具を用いて、玉将攻め将棋で遊ぶのは、たとえば”武将には本将棋が
難しいから”ではなくて、

 指し手総数が、せいぜい一局20~30手で終わり、100手前後の
日本将棋や、数百手必要な、大将棋系ゲームとは、勝負が付くまでの時
間が、全く違うためと思われるということである。

 仮にそれを文献にまれに出ているように戦場でするとして、その戦場
の、息抜き程度の時間で済むから、武将は本将棋を指すのではなくて、
家伝の将棋具を持ち出して、玉将攻め将棋遊びを、するのだろうと私は
思う。
 豊臣秀吉の後継者が、水無瀬兼成より進呈された、泰将棋や摩訶大大
将棋の駒を、どう使用したのかについては諸説あるが、個別の例につい
ては、いちいち使用方法の特定が難しく、必ずしも本来の、本将棋用に
使用してばかりいたとは、決め付けられないという点が、将棋史研究の
確かに難しい所だと、私も思っている。(2017/03/22)

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