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現代における、後期大将棋の麒麟の格(長さん)

日本将棋と異なり、駒数多数系の将棋には”麒麟”という駒がある。
江戸時代以降の大大将棋、摩訶大大将棋の一部、泰将棋では、大龍
という駒に成るが、概ね師子に成るとされる場合が多い。何れも、

不成りとの説が、見あたら無いのが特徴である。

動かし方は、縦横が2升目先に跳び、斜めが歩みである。成りの大龍
の動かし方には諸説あるが、前後に2つ踊り、斜め後ろに3つ踊り、
横に走ると共に、3升先まで跳ぶと解説する書が多いと思う。
 師子については、動くたびに方向が変化してよい2歩踊りと、隣接
升目への歩みを兼ね備える、最高に強い駒である。また、中将棋と、
現代後期大将棋に関しては、師子に関する特別な規則が、適用される
場合がある。なお、一部の史料に、天竺大将棋以上で、師子の動きは、
より強くなると、主張するものもある。
 この麒麟に関しては、以前から紹介している、将棋プロ棋士の
故岡崎史明(執筆当時)七段が、「中将棋の指し方」の中で、

「麒麟は(中将棋では)小駒」と表記されている事で知られる。

が、今世紀に入ると後期大将棋では、麒麟の格は大駒として、取り扱
われていると、私は認識している。
ここで誰が後期大将棋で、麒麟を大駒として扱っているのかと言えば、
スティーブ・エバンスと言う、オーストラリア人の開発した「将棋類」
という、PC対人対局ソフトのAIが、「麒麟は、後期大将棋では並の
走り駒との交換には応じず、失わないように指す」と、実践している
のが根拠である。つまり少なくとも後期大将棋では、

今世紀に入ると、”麒麟”は機械には大駒扱いされているのである。

ただ、上記のオーストラリア人の開発した、将棋のコンピュータソフト
は、1998年頃に出来たままのため、たぶんディープラーニングの
技術は使用されてはおらず、麒麟の価値は、人間がマニュアルで決定し
たものと、推定される。たぶん開発者は、後期大将棋では「麒麟を取ら
れないよう指すべきだ」と、人づてに、誰かから教わって、そう調節
しているのであろう。しかし残念ながら、後期大将棋では、人間同士の
対局例が余り、残っていないため、麒麟の格を21世紀の人間が、全般
的に大駒と認識しているかどうかについては、現在でもぼやけている。
 何れにしても麒麟は、ゲームによって小駒扱いされたり、大駒扱い
されたり変化する、可能性のある駒である。なお、

中将棋で麒麟が小駒なのは、一局の中で、成り麒麟の師子のできる、
確率が低いからである。

これは、中将棋では斜め走り駒が、序盤に急激に斬り合いをしないよ
うに、駒の初期配置が、全般的に巧妙に調整されており、その結果、
縦走り駒の先の歩兵が、突き捨てられた列ができにくく、特に縦横走り
駒が終盤まで残って、麒麟の前進を邪魔するためである。すなわち、
中将棋では、小駒をジリジリ上げてゆくような、将棋が多くなるため、
最後に、縦走り駒の斬り合いになり、麒麟が登って師子となって、相
手陣を壊す展開になる前に、終局になるというわけである。そこで、

師子に成る機会が無いのであれば、麒麟は麒麟の動き本来の強さだけ
が問題になるので、中将棋では麒麟は、ほぼ小駒なのである。

当然だが、斜め走り駒で、歩兵の列が崩れて、縦走り駒の斬り合いが
中盤には進む後期大将棋では、麒麟は本来の麒麟の動きではなくて、

麒麟は師子に成る駒であるという点が重要になる。そのため後期大将棋
では、並の走り駒では、交換には応じずに、温存するように大駒扱いで
当然指すのである。

何分対局に関する情報が乏しいため、私の場合麒麟の、この駒の価値
判断の実体については、スティーブ・エバンスの「将棋類ソフトのAI」
程度しか、きちんとした根拠を、今の所挙げる事が出来ない。
 なお大将棋では、普通唱導集の時代に既に、麒麟は大将棋では師子に
成っていたと、私は推定している。つまり、普通唱導集大将棋と後期
大将棋で、麒麟の価値は高いことで一致すると、私は見ている。
普通唱導集は鎌倉時代の西暦1300年頃、水無瀬兼成の将棋部類抄は、
安土桃山時代の西暦1580年代であるから、麒麟のルールに関する
根拠は、将棋部類抄ではなくて、14世紀と推定されるとも言う、

鎌倉鶴岡八幡宮の、成り奔王鳳凰駒と、不成り香車駒の対の出土である。

この事から、駒の出土史料が重大な結論を及ぼす例が多いと、私には
しみじみと感じられる。(2017/05/10)