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平安小将棋の馬と車の修飾詞はなぜ、桂と香なのか(長さん)

ほぼ定説によると、日本の小将棋は鎌倉時代の草創期頃、片方に将駒が4~5
枚、馬駒が2枚、車駒が2枚、兵駒が8~9枚で、構成されていたとされる。
このうち、前に述べたように、馬、車、兵に、日本人が輸入後、桂、香、歩の
修飾詞を付けたらしいと、私は考えている。ただ、兵駒については、動かし方
のルールから”歩”にしたのは、ほぼ異論が無いのではないかと思う。しかし、
桂、香については、解明がこれほどには簡単ではない。かなり有力な説として、
駒の名称の桂と香も、仏教用具に起源を求める説が先行して存在する。しかし
お香は仏教から連想するのは容易だが、桂の方はどうであろうかと、私は疑う。
 他方、中将棋、大将棋と、このブログで題材にしている、駒数の多い将棋に、
なればなるほど、必要な修飾詞の数も増加する。のでその類推から、逆に
桂と香の謎が解けないのかと、考える向きもあるかもしれない。しかし、香に
ついては、象駒に別例があるだけ。桂については、他に転用した別例が、余
り知られてい無い。しかも、駒数多数将棋には、逆に同じ修飾詞、例えば”奔”
”猛””飛”を付ける例が、複数ある等、ケースバイケースで、そのつど、修
飾詞は適切なものを、いつも考えていたとも言えない、議論の不規則性がある。
そのため小将棋で、仏教とのつながりは自明でない馬に、なぜ桂をつけたのか。
車のうち、日本で使われたのが、最も早かったものが、なぜ香なのか。ヒント
になるような情報が、そもそも少ない事が、調べてみれば、少なくともほぼ、
だいたいの方に、納得される状況なのが現実ではないかと、私は認識している。
 その証拠に中将棋駒名との比較から、桂や香を論じている例を、私は少なく
とも知らない。また大局将棋では、他のいわゆる、大大将棋等の六将棋で使わ
れている駒は、たとえば、蟠蛇・猛熊の成りを奔蛇・奔熊ではなくて、蟠龍・
大熊に変える等して、伝統的な駒名の成りを、大局将棋の発案時とみられる、
駒の系列とは区別している。これは察するに、成り規則を敢えて変則的にし、
”江戸時代の人間は、これら六将棋の駒名の起源は、知らないので、成りを、
大局将棋固有駒と、同一のパターンにする事はできない”と、主張するかのよ
うに、工夫していると思われる、フシがあるのである。
 以上のように、相当に困難な”桂”と”香”の字の謎であるが、とりあえず
私は、前回述べた、原始平安小将棋の輸入当時の立体駒が、馬は材質が桂の木
の木彫り、車は、貴族の使う人力車のような形に、精密に細工されていたので
はないかと思っている。その修飾詞の”孤立した使われ方”から、こう考える
のが、最もすわりが良いのではなかろうか。ただし繰り返すが、証拠を挙げる
のは、”藤原摂関用黄金の将棋具”の存在自体が仮説であるから、現時点では
非常に困難である。
 ただ、これではあまりに平凡で、大宰府の将棋仲間の心中に、駒名に関して
強い印象を残すには、名前の付け方に工夫が、多分に足りないのではないかと
懸念している。そのため、この”桂”と”香”には、もう一ヒネリが、ネーミ
ング時に、隠されているのかもしれないと疑っている。以下、私の考えた、
仲間に将棋の駒の新作名を、忘れさせないようにする、もう一ヒネリとは、
やはり藤原摂関用贈答品高級将棋具の、オリジナルな作りの別の性質に関係し、
次のような事があったのではないかと、想定する事から出発している。
すなわち、

「貴金属駒を多数使った、立体駒将棋道具では、何と将棋駒ばかりではなく、
将棋盤も超高級で、”桂”材を用いて作られた一級品だった。そのためその盤
は、芳しい、本当に良い”香り”がした。」

という情報を、摂関用原始平安小将棋立体駒付き将棋具に、実際に接した事の
あった、大宰府の古株の将棋指しが、新参の棋士への語り草として、話を聞か
せるつもりで、馬と車の駒名に、桂、香の修飾詞を洒落て付けてみた、という
アイディアである。
 むろん、桂馬の元となった馬駒も、桂で同じ材質なら、同じ桂の芳香が有っ
たのだろう。だが駒より盤の方が大型で、体積も表面積も大きいから、芳香は
盤からの方が強く、近くに居るだけで、気が付いたのではないかと私は考える。
馬は桂の木の木彫り、車はデザインが、貴族用人力車である事も確かだが、
将棋盤の性質についても、駒名に入れ込んで、後輩も興味を持っている”黄金
の原始平安小将棋道具”に関する情報を、増やして見せたのではないかと、言
う事である。
 以上は、証明は現時点では無理だが、酔象から後の、将棋駒とは、全く別の
命名系列であるため、桂馬と香車については、伝来時の個別の何らかの事情で、
その名前に、たまたまなっている可能性も、完全には否定はできないのではな
いかと、私は考えているのである。(2017/06/14)