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1993年の発掘で、興福寺から16枚中4枚金将が出土したのか(長さん)

幾つかの遺跡では、駒がまとまって出ているため、駒個々の様子だけで
なく、出土した枚数のばらつきから、ゲームの種類を推定できる可能性
がある。天童市で作成された成書、「天童の将棋駒と全国遺跡出土駒」
には、巻末に出土駒種類の集計が表に載っているので、それを見ながら、
駒種それぞれの、将棋種を仮定したときの、理論比率に対する、実際の
出土数のバラツキを、簡単に調べることが可能である。
 それによると、特に顕著な現象として、

①興福寺の1993年の発掘で、16枚中4枚金将が出土したとされる
のは、8升目制原始平安小将棋の道具と仮定したときの、期待値約1枚
に比して、有意に多い。

という事実がある。実はそれよりも顕著だが、
②一乗谷出土駒に、角行が理論数の約6枚のちょうど倍の、12枚出土
している、というのがある。しかし②については、ここでは特に、問題
にしないことにする。昨日のべたように、②から、ひょっとして、角行
を2枚加えた40枚制持ち駒型の小将棋や、角2枚と、中飛車の位置に
飛車の入る、3枚大駒の有る42枚制の小将棋も、実はあったのではな
いかと連想させるが、これは日本将棋の歴史に関連するだけで、大将棋
の問題からは、一応外れると私は思うからである。
 それに対して、興福寺の20世紀における発掘で、金将が多いという
方は、最初から金将を、一方にたとえば2枚入れた、升目が9升目の
将棋を、11世紀半ばに問題なく指されてしまうと、12世紀の初めか
ら半ば程度に、13升目の大将棋が、発生しなければならない理由が、
謎になってしまうため、このブログの流れに対する影響は、大きいと、
私は思う。興福寺で指された将棋では、16枚駒が出土するときには、
金将が、平均して1枚程度であるのが、このブログに今まで書いた内容
からすると、有っているかどうかと言う点では、好ましいのである。
 なお、偶然というのが数学上は考えられるので、確率計算をする必要
が、このような議論には、絶対に必要である。金将が出る確率は、元々
1/16と小さいので、偶然起こり得るばらつきの範囲は、
ポアソン分布表で調べられる数値に基づくものと、ほぼ同じ結果だろう
と、私は考えてみた。そこでポアソン分布表を引くと、
3つ出る確率は、ほぼ16回に一回、それに対して、
4つ出る確率は、ほぼ65回に一回程度である。
以下、あくまで私の感覚だが、このケースには結局、

3個までならなんとか許されるが、4個だと異常と見るべきだと思う。

なお、1993年の発掘で玉将もやや多く、3個出土している。王将と
半々だとすれば、確率は80回に一回位になり、王将は無いと見てよい
と思う。しかし、玉将が玉駒の全てとすれば、偶然としても仕方ない
数だと、私は思う。
 なお、こうした議論を続けていると、”粗捜しだろう”という批判も、
通常通り飛び出すだろう。ただ、出土駒の世界に関しては、平泉の中尊
寺境内遺跡と、大阪の高槻城三の丸遺跡の出土駒が、それぞれ8升目制
原始平安小将棋、日本将棋として、ほぼ正常な駒種割合となっているた
め、意図的に偏りを探しているという批判は、当たりにくいと、私は思
っている。
 では、平均して1枚しか出ないはずの、金将が、1993年の興福寺
の発掘で4枚出た原因であるが、以下いつものようにすばり、結論とし
ての、私見を述べる。すなわち実際には、

3枚しか金将は出土しておらず、成書「持駒使用の謎」に紹介されてい
る、清水論文の番号の付け方で、第7番の金将は桂馬であって、成りの
金将を表面と誤認している疑いがある

と私は思う。つまりこの駒は、何も書いてないと、説明されている駒の
片面の実際の写真を見ると、桂馬と書いてあるようにも、私には見える
という事である。なお、この駒が桂馬だとすると、桂馬とされる出土駒
の裏の書体が、特殊だと私が以前説明した事柄が、駒によってばらばら
で、特に規則性が無いと、変更もされるように思う。
 以上のように、特定の一枚の出土駒の駒種の推定に、仮に劣化が激し
いために誤りがあるとすれば、興福寺出土駒からは、将棋種の推定等は、
はっきりとは出来ない状態と、見るべきなのではないかというのが、私
の個人的な印象である。
 ちなみに、最近2013年に興福寺では再度発掘が行われ、酔象が、
駒で出土した事で著名である。調査すると、新たな出土駒は、

酔象、桂馬、歩兵、不明の4枚のようである。

1993年当時の16枚が20枚になりかつ、もともと、桂馬と歩兵は、
少なすぎる傾向で有ったため、状況が少し好転した。しかし金将につい
て、20枚中4枚では、ポアソン分布で65回に一回程度が、35回に
1回程度、玉将の20枚に3枚の方は、16回に一回が、11回に1回
になるだけなので、なおも桁は変わらず、ほぼ上記の結論で、良さそう
だと思える。(2017/06/23)