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将棋部類抄泰将棋、島本町教育委員会編版と都立図書館加賀藩版比較(長さん)

前回にひき続いて、加賀藩の文書に含まれる前田家書写、水無瀬兼成の
将棋纂図部類抄の、話題である。加賀藩前田家書写版と、島本町教育
委員会編パンフレット、「水無瀬 将棋図」の将棋纂図部類抄の今回は、
泰将棋(表面)の、特に、駒の動かし方を示すルールを表現する打点を
比較してみる。一見して両者間で判る事がある。それは、前田家の書写
が、水無瀬宮の巻物とみられる、島本町教育委員会編の水無瀬将棋図
(将棋纂図部類抄)と、類似の時期に作成されたものの、さらに書写で
あると、言う事である。つまり、

島本町教育委員会編パンフレットの水無瀬将棋図、将棋纂図部類抄
の方が、より始原的だと言う事

である。根拠は、
⑦麒麟と鳳凰が、前田家書写本(都立中央図書館 編集史料)では、
打点が省略されている事である。これは、始原的な巻物である、島本町
にある巻物の泰将棋の、麒麟と鳳凰のルールが、江戸時代の中将棋の
常識からみて、明らかにおかしいため、不明(謎)と見て省略した
と、解釈できる。つまり、島本町に現存する巻物の時代の物を、加賀藩
前田家は見て、その書写本を作成していると考えられる。

その他、もっと一目で判る特徴がある。

前田家写本では、泰将棋の表面のルール図は、同じ駒があれば、右辺の
駒しか打点していない。ただし、左右で水無瀬宮の巻物に、矛盾がある
古猿や奔鬼等は、考慮のうえ、どちらかに合わせているようである。
これは、前田家が水無瀬兼成の将棋図(将棋纂図部類抄)を、水無瀬自
身のように、諸情報の編集史料ではなくて、

将棋のルール本としての興味から、書写しているからである

と、私には考えられる。
 さてそこで、以下は少し詳細に見ると、島本町教育委員会編パンフレ
ットと、前田家写本(都立中央図書館所蔵巻物)との間で、泰将棋で
ルールが、変わってしまった駒は、今の所、私は6種類発見している。

①奔獏の下の打点が、島本町編には有ったが、前田家写本では消えた。
②猛鷲の上打点が、島本町編には有ったが、前田家写本では消えた。
 なお、オリジナルでは左右でルールが違い、右は後退できるが、左は
 後退できない。
③鉄将の前走りを歩みに変えて、おかしな記号を削除した。
④角鷹が飛鷲に島本町本では間違っていたが、前田家写本では正された。
ただし、”角鷹の左右走り”を、うっかりだろうが忘れている。
⑤飛鷲が角鷹に島本町本では間違っていたが、前田家写本では正された。
⑥飛牛も、奔猪の動きから中将棋の、飛牛の動きに前田家写本では修正
された。
次に、打点そのものを、中将棋に有ると解釈して、前田家写本では、略
してしまった駒がある。上記の麒麟と鳳凰を入れて、次の通りである。

⑦麒麟と鳳凰が、前田家書写本(都立中央図書館 編集史料)では、
打点が省略。なお、島本町教育委員会編の泰将棋麒麟には、斜め歩み点
が無く、泰将棋鳳凰には前後左右の歩み点が無いため、江戸時代の、
中将棋のルールと、大きく違っている。
⑧師子も同様。なお、島本町教育委員会編の泰将棋師子は、14個打点
があり、もともと意味が良くわからない。
⑨酔象も同様。なお、島本町教育委員会編の泰将棋師子は、金将の動き
で、典型的な酔象のルール、後退できない7方向歩みに、そもそもなっ
ていない。
⑩仲人も同様。
⑪自在王の打点も、島本町本は意味不明な点打ちで有るが、前田家写本
では省略されている。

上記のように、オリジナルで意味不明な駒で中将棋や、摩訶大大将棋口
伝部に記載が有れば、前田書写では、恐らく混乱を危惧して、打点を
削除してしまったようである。
 更に、左右に同類の駒があり、左右で、恐らく誤写により、動きの
違うものが、島本教育委員会編パンフの、将棋纂図部類抄の泰将棋には、
いくつか有る。これについて、前田家写本では、次のように処理したよ
うである。

⑫奔鬼の打点は右不明瞭なため、前田家写本は左の駒のを採用している。
⑬古猿については、右の駒を採用した。その結果、古猿と盲猿の動きが
同じになってしまった。左右で違うのに、前田家で書写したときに、気
がつかなかったのかもしれない。段ごとにチェックしたため、気がつか
なかったのかもしれないと、推定できる。
⑭老鼠は右を採用。後退できなくなった。

その他としては、次の1種類の駒が有る。
番外:前旗の前動きが、島本町教育委員会パンフの巻物では5踊りだっ
たが、”前”の字に隠れて、何個踊るのか良くわからない、不明確な打
点になった。なお、水無瀬将棋纂図部類抄で、前に3升目以上踊るのは、
前旗の5踊り、大大将棋の奔鬼の5踊り等いくつか有る。前田家写本で
は、何れも、前方5踊り等を恐らく表現しているようだが、駒名の字に
隠れて、上記例については、少なくとも踊りの数が掴みにくくなった。
 同一駒3種類動きは、奔獏の下の点を消したので、奔獏については消
えたが、前田家写本では確率は少ないが、前旗で、新たに発生した疑い
が、ひょっとしたら有るかもしれない。がそれが無いとすれば、麒麟・
鳳凰の泰将棋での変化が表現されなくなり、逆に奔獏の例外が消えた事
になる。また、鉄将が前走りで無くなり、走りの連続に関する調査は、
かえって凸凹化したという意味での例外が、存在しなくなった。
 巻物の差により、以前のべた”泰将棋の豊臣秀次等への美術品として
の献上品”仮説が、崩れる事は、どうやら無さそうであった。
(2017/11/03)

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