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日本の将棋駒に”角行”があるのは何故か(長さん)

日本の将棋に角行が有るのは”西暦1110年程度
に成立した平安大将棋に、横行があって、それから
連想できるからだ”と言ってみせるのは、よく考え
てみると判るが、後知恵である。つまり横行、竪行、
角行、方行、鉤行等の存在を知っている人間が、そ
れが当たり前と思っているので、納得してしまうと
いう錯覚である。何故かと言うと、他方で

我々は、横暴な悪人の跋扈状態を、横行という熟語
の意味と信じて、将棋以外ではそっちを使う

からである。悪党、海賊、横行、来襲、略奪といっ
たふうに熟語が並んでいて、横行の関連語として、
角行や竪行が連想できたら、たいしたものだと私は
思う。
 ここまで私が言っても、まだ、ぴんと来ない方も、
中には有るかもしれないので、以上の論理は、

仮定として正しい

としてもらおう。それで、ひとまず次に進む事にす
る。では、それでも横行から、角行等の将棋駒種が

できたのは何故だろうと、その理由を以下で論じる。

回答から書き、見通しを良くしておく。

横行は、平安時代から鎌倉時代の前期には、日本語
では無かった

ので、その無知が、返って幸いしたのである。
 では、以下に説明を加える。
 実は、色葉字類抄には、二巻物に、見出し語とし
ての

横行は無く、十巻物には横行そのものが無い。

ニ巻物では”と”の雑物の所で、銅将の文字の下に、
小さく裏横行と書いてあるだけである。なお、その
銅将も、十巻物には無い。横行という熟語の見出し
は、色葉字類抄には、何処を探しても、今の所、私
には見つからない。”よ”の所、辺りに、有っても
良さそうなのだが。
 つまり、平安時代末期から鎌倉時代初期の頃、

横暴な悪人の跋扈状態を横行というのは純粋中国語

だったのであろう。その中国語に横行が有った事は、

将棋史の研究者や、私のような愛好家の間では著名

だ。唐王朝時代の玄怪録の、小人の戦争に出てくる、
上将の駒の動かし方ルールで、縦横に縛られずに動
くという意味で、

前後左右に横行し・・

との旨が表現されているからである。
 学者の作った平安大将棋に取り入れられているの
で、上量階級で、中国の北宋王朝や朝鮮の高麗王朝
と繋がりがある、日本の皇族、貴族が、平安時代の
末期に、横行の意味は充分知っていたとみられる。
 しかし横行という熟語を頻繁に使うのは、現代に
於いて、大学の先生の一部で、論文を英文で書いて
いるのを強調する方々が、日本語と英語の単語を
1:1程度の頻度で、しばしば、シンポジウム等の
壇上で、混ぜ合わせて喋ってみせているのを、英語
を当時の漢文語に、交換したような喋り方をしてい
たと、少なくとも私には想像される、平安時代の
朝廷の、お抱え学者程度だったと考えられる。
 つまり、そこそこ識字が出来た程度の、中国語が
専門である訳でもない識者程度で、将棋の愛好家だっ
た平安期~鎌倉初期の人物にとって、横行は、

聞かされても、文字通り、”ヨコバシリ”の意味に
しか聞こえなかった

とみられる。だから、
横行の中国語としての意味を知っている、当時の
中国語の専門家や、今の我々、無論現地人と違って、
鎌倉中期の将棋指しや、デザイナーには、横行から、

竪行や角行が、我々以上に、たやすく考え出せた

と考えられるという事になる。なお、縦と竪で縦を
使わなかったのは、諸橋徹次の大漢和辞典を読む限
り、縦には少なくとも昔、”方々”という意味も有
り、前後かまたは上下に限定される、竪の方が勝っ
ていたためと考えられる。元に戻すとすなわち当時
は、色葉字類抄を見る限り、中国人との間で通訳が
出来た、当時の日本の中国語学者と違い、どうやら

通常の日本人には、横行が、日本語として存在しな
かった

ようである。恐らく”横行人”等の言葉として、
当時上流貴族間で、盗賊集団等を表すときに、隠語
で使われていた程度なのであろう。つまりそのよう
な熟語は、普通の和語としては、鎌倉時代半ばまで
は恐らく存在しなかったと見られる。
 なお、十巻物の色葉字類抄には、歩兵が”ふ”の
熟語の欄に登場する。少なくとも十巻物色葉字類抄
は、今で言う、詳しい辞書の類と見てよいような気
が、私にはする。
 ただし、悪狼を横行と同じような位置にもってき
た、南北朝時代以降の、後期大将棋のゲームデザイ
ナーは、そうしてみると、我々と同じように、悪党
を悪狼と洒落ていたのだろうから、横行の意味を、
知っていた事になる。
 時代が下るにつれて、上流皇族・貴族から、武家
等の大衆社会へと定説の通り、文化情報が、次第に
広がっていったのであろう。
 従って、史料としては、それらしいものとして、
目下、

栃木県小山市神鳥谷曲輪遺跡の成り一文字金角行駒

と、”普通唱導集の大将棋の唱導唄で『仲人の所に、
角行筋が当たっている』ように聞こえるため、西暦
1300年までには角行は存在”程度しか無いので
あるが。

角行の発生は、明らかに、悪党の洒落である、鎌倉
時代末期の悪狼の出現よりは、少なくとも幾分か前
の事であろう

と、推定もできると言う訳になるのだろうと、私に
は考えられる。
 角行という著名だが、今でも日本語の熟語として、
将棋駒でしか使わない言葉は、以上のように、横行
という熟語が、茶の間の日本語では無かった時代が
有ったという事を知らないと、存在が説明できない
言葉なようである。(2019/04/10)

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