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元禄時代、摩訶大将棋は散漫に啓蒙された(長さん)

今回は、さいきん発見された、大阪の将棋作駒
の愛好家等の田中賢一氏所蔵の史料のうち、
摩訶大将棊之図に関して、従来言われているよ
うに”少ない種類数の変種だけ有る”との旨の

大阪電気通信大学高見友幸氏の推定に疑問
を投げかける事実を以下に指摘

する。すなわち、
個々の駒の駒の動かし方のルールに、特定の
史料との一致が特に見られず、

元禄時代には将棋ゲームの研究家は、個人個人
でバラバラに摩訶大将棋のルールを主張してい
た疑いがある

との旨の結論を以下示す。
 では、議論を開始する。
先行研究は、今述べた大阪電気通信大学の
高見友幸氏のIR*ゲーミング学会、ニユーズ
レターNO.38”最近発見された摩訶大将棋
に関する古文書”(8から11ページ2019
年)大阪商業大学アミューズメント産業研究所
である。それによると”はじめに”の文末に於
いて高見氏は、”象戯圖の系統とは違う系統の
文献が17世紀にはまだ存在していたものと思
われる。”と結んでおられる。そこで今回は、
元禄時代に、摩訶大大将棋に関して

個人でバラバラではなく系統があるのかどうか

を問題にする。そこで、初期配列図の駒に記載
されている、具体的な駒の動かし方ルールを、
以下実際に、チェックすると言う方法で、高見
氏の主張の当否を試してみた。
以下に、結果を示す。
(注)”コマ種類:ルールのフォーム”で以下
示す。
玉将:八方歩み。玉将の動き
金将:金将の動き。
銀将:銀将の5方向動き。
桂馬:将棋六種之図式と同じ形式に書いてある。
この時代には、日本将棋の棋譜が成立し、桂馬
は桂馬跳びに確定している。よってこれは、
たぶん普通の桂馬なのであろう。
香車:前方走り。香車の動き。
銅将:四方向、後期大将棋の銅将の動き。
鉄将:銅将の動き・・→特殊。
瓦将:瓦将の3方動き。
石将:石将の2方向動き。
土将:土将の前後動き。
提婆:玉将と同じ・・→特殊。
無明:玉将と同じ・・→特殊。
酔象:後退出来ない酔象の7方歩み。
盲虎:前に行けない盲虎の7方歩み。
猛豹:横へ行けない猛豹の6方歩み。
臥龍:白象の動き・・→特殊。
古猿:銀将の天地逆。古猿の動き。
蟠蛇:銅将の天地逆。蟠蛇の動き。
淮鶏:前進できない金将。淮鶏の動き。
師子:省略されているが、中将棋の師子のよう。
説明書きの、”一”以下を正直に読むと、
中将棋と同じ”師子に関する特別則”を、この
ケースにも適用するように読める。
麒麟:前後左右に2升目だけ踊り。斜め歩み。
・・→特殊。(大阪電気通信大学ルール)
鳳凰:斜めに2升目だけ踊り。前後左右歩み。
・・→特殊。(大阪電気通信大学ルール)
悪狼:書写者が、左側を”悪猪”と誤記。金将
の動き・・→特殊。
狛犬:八方3歩み正行度。”一”部分の説明か
ら後退も可能で、合計3歩以内になれば良いの
で、居喰いが出来るようにも読める。作者の
オリジナルか・・→特殊。
金剛:前後左右3升目だけ踊り。斜め4方向共
に歩み。(大阪電気通信大学ルール)
力士:斜め4方向に3升目だけ踊り。左右だけ
でなく前後にも歩み。(大阪電気通信大学ルール)
夜叉:斜め4方2升目踊り、前歩み。将棋纂図
部類抄、摩訶大大将棋の夜叉である。
羅刹:斜め前に3方向だけ歩める、金将の動き
であって、前方へも歩める・・→特殊。
飛龍:斜めに2升目だけ踊りに加えて前後歩み
・・→特殊。
猛牛:猛牛の前後左右2升目だけ踊りに加えて、
斜め前にも2升目踊り・・→特殊。
嗔猪:前と左右3方向歩み。将棋纂図部類抄の
嗔猪。
猫叉:猫叉と記載。斜めに歩む猫刃猫叉の動き。
なお、右猫叉の前升目に、コピー機でコピーし
たときに出たとも疑われる、左の部分の欠けた、
”猫叉”の一部が書かれている。
盲熊:盲虎の動き。将棋纂図部類抄の摩訶大大
象戯の盲熊の動きだとみられる。
老鼠:前方と斜め後ろの3方歩み。老鼠の動き。
反車:前後走りの、反車の動き。
驢馬:前方2踊り、左右歩み。はっきりしない
が、たぶん踊る点が・・→特殊。
奔王:8方向走り。奔王の動き。
鉤行:飛車2回の動き。相手駒を取ったら、そ
の先に行けない。鉤行の動き。
摩羯:羯は日本式の魚ヘン。角行2回の動き。
相手駒を取ったら、その先に行けない。摩羯の
動き。
龍王:前後左右走り、斜め歩みの龍王。
龍馬:斜め4方向走り。前後左右歩みの龍馬。
角行:斜め走りの角行。
竪行:前後2方向走り、左右歩みの竪行。
横飛:左右走り、斜め4方向歩みの横飛。
横行:左右走り、前後歩みの横行。
左車:右前左後ろ2方向走り、右1歩。前に
走れない・・→特殊。
右車:左前右後ろ2方向走り、左1歩。前に
走れない・・→特殊。
飛車:前後左右走り、飛車の動き。
歩兵:前一歩歩兵の動き。
仲人:前後歩み。普通の仲人になっており、
この図では、横に動けるように書いてない。
なお恐らく、”成り駒のルール図”も有ったよ
うに、注釈部の記載から私は推定するが、残念
ながら、失われたようである。
 以上の結果から。だいたい50種類程度の、
摩訶大大将棋または、摩訶大将棋の駒のうち、
14種類程度が、このバージョンだけの特殊
な動きのルールという事である。そのうち鉄将
のように、単なる誤記の疑いの物も、2~3種
程度は有りそうである。
 しかしながら、

金将の前後逆が定番の臥龍のように、白象動き
にしなければならない理由が、ほとんど不明

なものが、明らかに混じり込んでいる。
 したがって、少なくとも臥龍の動きを、どこ
からか、既存の文献から持ってきたとは、ちょっ
と考えられない、だから臥龍について、単なる

作成者の気まぐれで作った、ルールなのではな
いかと私には疑われる。

このような、原典が有るとはとても思えない駒
の動かし方ルールが、摩訶大将棊之図の中には
存在する事は確かである。
 従って元禄時代に、摩訶大将棋のゲームのルー
ル系統が、有る程度、しぼられている状況だと
すれば、今述べたような

臥龍の動きのような変則例が生じるとは、ちょ
っと考えにくい。

よって元禄時代には、摩訶大将棋のゲームルー
ルについては、啓蒙家が、個々バラバラに勝手
なルールを、自由に公表している状態だったと
考えた方がむしろ、やや自然なのではないのか。
以上のように、私は結論したという事である。
(2020/03/29)

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