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玄怪録”岑順”。語句付加でシャンチーになるのか(長さん)

前に述べたように、牛僧儒の玄怪録を収録した、北宋
の太平広記は、怪奇小説の枝葉は切り落として、現代
に伝えられているとされる。枝葉を切り落としたから、
本来シャンチーの先祖であるべき宝応将棋が、日本の
平安小将棋のプロトタイプのように見えているだけの
疑いも、否定できないと言う事であった。そこで、今
回は、玄怪録”岑順”に、砲駒の要素を足して、シャ
ンチーの先祖に出来ないのかどうか、考察した。
結論を先に述べる。

できない。

理由は、”砲の類、矢の類、石の類が飛び交った”と
いう一文の、

”砲の類”の語句が、ダブついてしまうから

である。
 では、以下に説明する。
 西暦2011年01月12日に、将棋史研究家の、
(故)溝口和彦氏が「北京国学時代文化伝播有限公司」
版の玄怪録”岑順”を、webに紹介している。これ
は、前野直彬氏の東洋文庫版(平凡社・1964)
唐代伝奇集2の玄怪録”岑順”(小人の戦争)の訳と、
良く対応している。ので、太平広記と、さほど違って
いないのだろうと推定できる。これを使って説明する
のが判りやすいので、以下使う事にする。
 天那軍と金象軍が登場してから、天那軍が潰走する
までの下りは、次のようになっている。

E③・・三奏金革,四門出兵,連旗万計,風馳云走,
両皆列陣。
E④ 其東壁下是天那軍,西壁下金象軍。
E⑤ 部后各定,軍師進曰:
F① 天馬斜飛度三止,上将横行系四方。
F② 輜車直入无回翔,六甲次第不乖行。
G① 王曰:“善。”
G② 于是鼓之,両軍倶有一騎,斜去三尺,止。
G③ 又鼓之,各有一歩卒,横行一尺。
G④ 又鼓之,進車。
H① 如是鼓漸急而各出,物包矢石乱交。
H② 須臾之間,天那軍大敗・・・

なお、記号は溝口氏による。これも使わせてもらうこ
とにする。
 そもそもE③で、2手に分かれて、それぞれ金象軍、
天那軍が出てくる点が、奇数列配列でないと、兵卒の、
トビトビ置きが出来ないので、跳び越え駒の砲が旨く
導入できず致命的ではある。が、その点はまずは置く
事にして、次に進む事にする。
 そしてそれでも何とか、シャンチーとツジツマ合わ
せをするために、砲のルールや、序盤での駒組表現を
追加するとすれば、だいたい次のようになるだろう。
・・・
E⑤ 部后各定,軍師進曰:
F① 天馬斜飛度三止,上将横行系四方。
F② 輜車直入无回翔,(砲は四方に任意に行き、相手
駒を取るときに一つ駒を跳び越えろ。)六甲次第不乖行。
G① 王曰:“善。”
(于是鼓之,砲を水平方向で王の前に進める。(挿入))
G②(于是→又)鼓之,両軍倶有一騎,斜去三尺,止。
G③ 又鼓之,各有一歩卒,横行一尺。
G④ 又鼓之,進車。
(又鼓之,それぞれの上将を水平に2尺動かし、輜車
の後ろの升目に移動させ、雀刺し戦法を狙う(推定)。)
H① 如是鼓漸急而各出,物(包←余計)矢石乱交。
H② 須臾之間,天那軍大敗・・・

 なお、しばしば本ブログで問題にした”横”は、
”いわゆるワルの動きで乱暴に”の意味だろう。2回
出てくる。原文にも、このような形で有ったのだろう。
チャンギが横動きになったのも、ひょっとしたら、
それが原因かもしれないが、”水平方向へ”は誤訳で、
前に一歩が正しいと、一応ここでは取ってみた。なお、
歩卒を横に動かしてから、輜車を前進させるのは、歩
卒トビトビ配列だったというのが、正しいとしても、
ほとんど意味不明手だ。
 ところでH①に有るように、それぞれの軍は各々駒
を繰り出して(而各出,)いるので、後半の記載は、
”矢の類、石の類が飛び交い”さえすれば良く、繰り
出しの部分に含まれている、”砲の類の飛び交い”は
余分である。
 つまり、もし砲について、記載するのが面倒で省略
したとするならば、”物包矢石乱交。”ではなくて、
太平広記には乱雑に、”物矢石乱交。”と書かれて、
残る程度の、はずだったと言う事である。
 しかし、たかが娯楽用の伝奇小説に、きちんと、飛
び兵器として、砲も入っているというのを、矛盾なく
説明している。という事は、歩卒等が弩・弓で弾いた
り、手で投げたりする石火矢が、矢や石と並立に、
唐代には武器の砲として、普通に存在する程度だった。
ので、3つ組で、最初から表現していただけであって、
駒としてやはり入っては、いなかったという事を、
示しているのではないのか。
 だから、弓や弩を駒に加えなかったのに加えて、砲
も、宝応将棋には、入っていなかったのではないか。
 よって、象の代わりに違いない上将が強すぎし、車
の一種に違いない輜車が、日本の香車型に弱体してい
るのに加えて、砲が無いのも、宝応将棋が中国シャン
チーとは、有意に大差があるという、証拠なのではな
いか。以上のように今の所、私は読んでいるのである。
それに引きかえ、宝応将棋から原始平安小将棋への変
化は、玉将を入れて金銀を一つづつ降格させ、上将
こと象を、削除するだけで、ほぼ移行できると私はみ
ているのである。(2019/05/18)

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