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木製遺物の保存処理の確認(長さん)

「木製遺物は、長い間に水溶性成分が遺物中の木材から流れ出て、
水分と置換し、ぶよぶよの状態で、水中から主として発見される。
水に浸かっていると、菌類による繁殖が、酸素不足によって妨げ
られるので、腐食が進まない。そのため、そのような環境におか
れた木簡・将棋駒・将棋盤等、いろいろな歴史上遺物が、あると
すれば、保存されるのである。しかしながら、ひとたび発掘
され、空中に置かれると、水分が蒸発して体積が急激に減少し、
木製遺物は、変形・劣化してしまう。そこでPEGという薬品
で処理し、遺物が原型を保てるようにしている」
以上が、web上でも記載が簡単に見つかる、「PEGによる、
遺跡の木製遺物の処理」の趣旨に関する、記述である。
 ところで、この「処理」は、処理にしては、妙に長時間と設備
を要するのが、個人的にはこれまで不思議とも思えた。そこで
今回、木材事典等で、木材の化学を勉強しなおして、とりあえず
上記の疑問を晴らしてみた。その結果

以下に述べるように、この「処理」という言葉は、少なくとも
私のイメージしていた、表面処理のような”処理”ではないと
理解できた。

PEG処理については、専門書木材事典では、「木材の改質」と
いうカテゴリーの中で、説明されていた。それによると、木材
成分の改質パターンは、以下のような旨で分類されるという。

木材成分の改質パターンの分類
1.木材と合成樹脂の複合化(広義の木材合成樹脂複合体)
 1.1合成樹脂モノマーを木材に添加しさらに重合するタイプ
  1.1.1 ビニル・アクリル重合型(狭義の木材合成樹脂複合体)
  1.1.2 開環重合反応型
  1.1.3 重縮合・付加重合型
 1.2. 高分子を注入添加し成分混合して複合化するタイプ
(PEGすなわちポリエチレングリコール処理が、これ↑)
2.木材分子=セルロースの誘導体化。化学反応させる。
 2.1 耐湿処理木材(アセチル化木材。ホルマール化木材)
 2.2 熱可塑性木材(エステル化、エーテル化等)
3.液体アンモニア処理による、木材分子の可塑化

ここで、PEG処理とは、ポリエチレングリコール処理の事で、
改質のカテゴリーの中では唯一、化学反応は係わらない。ただし、

表面処理ではなくて、”成分混合”工程の一種である事が判る。

なお、混合した後、水分は加熱や吸引等で、蒸発され系からは、
かなりの部分が、取り除かれるという”後処理”があるわけだ。
以上の事から、もともとが熱硬化性プラスチックの一種とみな
せる、木材のセルロース等の成分に、こちらは熱可塑性だが、
別の高分子、

ポリエチレングリコールを混合する工程が、実際には行われる
訳で、遺物が破損するため、攪拌が出来ないわけであるから、
短時間で、この”処理”が終わるはずが、私の知っている
高分子化学の常識からみて無い

とは、私にはようやく合点された。化学反応はなく混合である
から、化学コンビナートでなければ作業できないという、ほど
の事までは無く、将棋の駒程度の大きさの遺物であれば、

中学校の実験室程度の、加熱や吸引、分留設備があれば、
作業ができるだろうという事は、私には容易に想像できた。

 なお、ポリエチレングリコールは高分子量のものが、白色の
粒子状の固体、低分子量ならば無色透明な液体が、専門の
薬品会社から販売されていると、私は認識している。個人的
には現物は、若い頃に私は何回も見た。
が、混合作業中の遺物を、1~数ヶ月保管・管理しておく場所
等が必要等、個人でやるなら作業場所を手配するなど、一から
準備が必要なわけで、それなりにたいへんそうである。そこで
安直には、専門業者に頼んだほうが、遺物にとっては安全であ
る事は、私にも以上学習したので、一応理解できるようになっ
た、つもりにはなった。(2017/04/28)