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水無瀬兼成の将棋部類抄には、なぜ泰将棋の成りの図が無いのか(長さん)

安土桃山時代の将棋駒の作成で知られる水無瀬兼成の、駒数多数将棋の情報
元本である、将棋部類抄には、自明な日本将棋を除いて、泰将棋以外の、
各将棋の成り駒の詳細が、図で示されている。大大将棋も、図面が左右逆に
なっているが、成りの駒の詳細が、きちんと示されていて貴重である。なお、
成りの図は水無瀬兼成によると、その元史料の曼殊院の、室町時代1443年
の将棋図に載っているから、写したことになっている。ただし、泰将棋の図
は、曼殊院の将棋図には無く、水無瀬兼成が、別のところから持ってきたと
されるものである。そして泰将棋については、駒の表面の初期配列図が書い
てあるが、対応する成り駒の図が無い。これは、何故なのかと言うのが、
今回の問いかけである。答えを最初に書くことにすると、水無瀬の将棋部類
抄には、オリジナルにもとから、泰将棋の成りの図は、無く、

水無瀬兼成自身が、情報として、泰将棋の駒の成りについて、自らが発信し
たく無かったので、意図的に作らなかった

のだと、私は考える。理由は、そう考えられる動機が、水無瀬兼成にあるか
らである。そもそも、駒数多数将棋の道具の現物のうち、駒の多い部類は、
史料で根拠は示せないが、現代の成書のどこかで示唆が有るように、権力者
の居間等の、飾り物の可能性が強いと私も考える。はっきり言うと、たとえ
ば豊臣秀次は、自身の客間等に、水無瀬兼成作の将棋具を贈答された際、
飾ったのは、最も駒数の多い、

泰将棋の盤駒一式だけだったのではないか

と、私には容易に推定できる。権力の象徴として、大いに目立つからである。
ところで水無瀬兼成が、時の最高権力者等に、自身作の将棋具を贈答する際、
一式贈ったであろうが、権力者の所まで行って、たとえば、泰将棋を居間に
並べて飾る作業までは、しなかったにちがいない。その仕事は、たとえば
豊臣秀次自身がするとは考えられないので、秀次の付き人の、役目だったの
であろう。
 しかし、最高権力者の付き人が、いかに優秀であっても、354枚制の、
泰将棋の駒を、さいしょから、正しく並べるのは、かなり困難な作業だった
に違いない。その際、水無瀬が特に嫌気がさしたのは、

付き人が、駒の表裏を間違えたために、駒に過不足が最初から有ったように
考えて、文句を言われる事

だったのではないだろうか。たとえば泰将棋の、変狸の成り駒の鳩槃と、
元の駒の鳩槃を間違えて、初期配列の鳩槃の位置に、成り変狸を置いている
のに、付き人が気がつかないために、「変狸が無くて、鳩槃が余っている」
と、クレームを言って来るようなケースである。まじめに、泰将棋の表裏を
作成すると、以上のような文句に、いちいち対応しなければならないため、

水無瀬兼成としては極力、泰将棋の駒に、成りを作りたくなかったのではな
いか

と私は予想する。そのため、

水無瀬兼成が、たとえば豊臣秀次に献上した泰将棋の駒で成るのは、歩兵と
提婆、無明だけ程度だった可能性がある

と、私は思う。特に、その駒の裏面が、初期配列として別に存在するような、
成りの字を、水無瀬は書きたくなかったのではないか。たとえば、泰将棋に
も酔象がある。だが、この酔象も作成した水無瀬駒では、不成りだったのか
もしれないと、私は推測する。そしてもともと、

水無瀬兼成としては、泰将棋の成りのルールの議論そのものに、参加したく
なかったので、将棋部類抄に、泰将棋の成り面の図を意図的に作らなかった

と、私は考えるのである。そもそも、泰将棋自体、水無瀬兼成の作であり、
彼がそれを作ったのは、権力者からの「異制庭訓往来の『多い将棋』の内容
を、具体的に表現してほしい」との、水無瀬への無理な注文だったのかもし
れない。だから泰将棋を、水無瀬兼成が、たとえば豊臣秀次に献上した際、
その説明書きとして、泰将棋の配列図を作り、付き人で、その将棋を秀次の
部屋に並べて飾る役割の人間へも、パンフレットして、渡した可能性が強い
のだろう。水無瀬兼成の将棋部類抄の、泰将棋図は実質、もともと自分で書
いたパンフレットを再度、自分で、書き写したものではないのだろうか。
 そもそも、付き人に、成りの図まで渡すと、付き人は慣れずに混乱して、
設置するとき、駒の配置をますます間違える恐れもあるため、成りがほとん
ど無い、泰将棋の駒を敢えて水無瀬は作り、表面の配列図を書いた、パンフ
レットをだけを付けて、権力者に贈答したのではないかと、私は思う。
 従って、現在解明されている泰将棋のルールは”それより下位の将棋にあ
る駒は、同じに成る”と、後世勝手に仮定したまでの事であって、作成者、
水無瀬の泰将棋を、本当に指すのならば、水無瀬兼成の、以上で示した立場
を察して、我々は、それとは少し違うルールで、指すべきなのかもしれない。
 提婆や無明の初期配列位置からみて、駒を取ると成るという、成り条件は
動かないのだろう。が、ようするに毒蛇、古鵄、東夷が、鉤行、天狗、獅子
に成る事が無いため、初期配列の鉤行や天狗、摩羯が終盤までは確率的に残
りにくい事を更に加味すると、

終盤は、成り無明の法性だけが、自在王に対する有力な、攻め駒になってし
まう、千日手模様の泰将棋を、我々は本当は、指さなければならなかった、

という事かもしれないと、私は以上の事から察するようになったのである。
(2017/10/05)

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